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「ほら、みあ、後ろ」
言われて振り返って、どきっとした。
「かっこいいよね。みあと重なってない授業が同じなんだ。氷田君だったと思うけど、似合うから王子って呼んでる」
あの、桜の木の男の子が、友人らしき男の子と話していた。
「……ひゅか、彼と仲良いの?」
「ううん。話したことはないよ。何、みあ、一目ぼれ?」
一目ぼれは一目ぼれだけど、今日じゃない。
「ひゅかと同じ授業ってことは……同じ学科だったんだ」
氷田君か。
やっと名前がわかった。
会話を終えたのか、氷田君は部屋を出て行った。
「……やっぱ、かっこいいな……」
「何、みあ、王子のこと知ってるの?」
「式のときに見かけたの。そこで一目ぼれだったんだけど……仲良くなりたいなぁ」
「へぇ~」
ため息交じりで呟く私を見て、ひゅかはにんまりと笑った。
「み~あ♪」
「ん? ひゅか、おはよ」
桜の木の男の子の名前が、氷田というのだと知ってから、数日後のことだ。
ひゅかがにまにまと笑いながら、話しかけてきた。
「王子の携帯ゲットだじぇ★」
「!」
ポ○モンかよ、という突っ込みも思い浮かばないほど、私は驚いた。
「あのね、レポートでグループになったんだ」
「……本当?」
愕いて反応が鈍い私の背中を、ひゅかがぱしりと叩いた。
「嘘言ってどうすんの。陣君って名前だったよ、王子」
「じん……」
「ほら、何ぼやっとしてんのよ!携帯、携帯!」
「ふぇ?」
急かされて出した携帯を、ひゅかが取り上げた。