やさしさの欠片
今頃気がつくんだ?
接客業で客の顔を忘れるなんて……。
面倒だから、どこに行っても値段しか聞かない。
大概それだけで事が足りる。

紅茶がテーブルに運ばれ、先ほどの店員が
おどおどしたように、恐る恐る私を見ている。

「ありがとうございます」
一言だけお礼を言って紅茶に口を付けた。

少し味が薄い。香りも……。

「店長、ちょっとよろしいですか?」
「はい?」
「接客と言葉遣いくらい、きちんと教育してくださいね。
 それから…せっかくの紅茶が、ただの色水ですよ。
 お金は払っていきますので、郵送してください」
「大変申し訳ございません」

ツカツカと出口に向かう私に、一礼をする店長がガラスに映って見えた。

数日後……。

品物と一緒に送られてきた真っ白な封筒。
中には、謝罪の言葉と言い訳が書かれていた。

もぉ、あの店には行きたくない。

私から刺した一本の棘。

言い訳を敷き詰められた封筒を品物と一緒に送り返した。

こんなケチのついた物、可愛がれないもの。

気分が悪いのを思い出すくらいなら、損をしたほうがマシ。

さよなら、ちょっとお気に入りだったけど縁がなかったね。
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