急性大好き症候群
「でも麻尋ちゃん、あまり太一に嫉妬させちゃダメだよ。ああ見えて、けっこう溜め込むから」


あたしの言葉に一瞬きょとんとした麻尋ちゃんは、「夏祭りのことですか」と笑った。


「ダメなんですよね。太一は普通にしてて、女の子と話すんです。それに私はいちいち嫉妬しちゃって。それで、どうにか太一の気を引こうと、どうでもいい男に声をかけちゃって」

「太一、嘆いてたよ」


襲われかけたことは、口が裂けても言えない。


「わかってます。あの次の日、襲われましたから」

「……太一にか」


麻尋ちゃんは照れたように、少し頬を紅潮させて微笑んだ。


うまくいってるんだな、この二人。


「唯織さんはいないんですか? 彼氏とか」

「いやあ、あたしはちょっと、もう……別れる寸前だし」

「別れたいんですか?」


あたしの動きが一瞬止まる。


当然、今の麻尋ちゃんの言葉は、何気ないものだったに違いない。


ただ、それはあたしの意表を突くものだった。


理屈とかなんだと言い訳して逃げてきたこと。


あたしは、一体どうしたいの?


このままでいいはずがない。


こんな冷め切ったカップル、さっさと別れた方がいいに決まってる。


……でも、あたしの気持ちは?


あたしは別れたいの?


裕也のことはまだ好きなの?


あたしは逃げていたことにやっと気づいた。


だから、別れられなかったんだ。


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