急性大好き症候群
「……唯織さん?」
いきなり黙り込んだあたしを怪訝に思った麻尋ちゃんが小首を傾げる。
「なんか私……悪いこと言っちゃいました?」
いちいち気を使ってくれるこの子は、本当にいい子だ。
少し嫉妬が過ぎるだけで。
太一はこれをわかっているだろうか。
「あ、ううん。大丈夫。……一つ聞いてもいいかな」
「大丈夫ですけど」
「……思い出したくない記憶とか、ある?」
「え?」
ぱっちりした目をしばたたかせてあたしを見る。
「……そりゃあ、ありますよ」
「今思い出せって言ったら、思い出せる?」
「無理ですよ……。思い出したくないってことは、言わばトラウマみたいなものですよね。頭がおかしくなるくらい嫌な」
「そうだね」
「思い出したくないことは、直に思い出せなくなります。頭がおかしくなるのを必死に抑えて、その記憶に蓋をするんですから」
えらく抽象的な質問だったのに、それだけで麻尋ちゃんはあたしが言いたいことをなんとなくでも理解したらしい。
頭の回転が早い子だ。
「つまり、その記憶は消えたわけではない。自分の頭の中に眠ってるだけ……」
「あの……唯織さん、何か?」
「あ、ごめんね。いきなり変な質問しちゃって」
「……別にいいですけど」
時計を見ると、八時半を回っていた。
いきなり黙り込んだあたしを怪訝に思った麻尋ちゃんが小首を傾げる。
「なんか私……悪いこと言っちゃいました?」
いちいち気を使ってくれるこの子は、本当にいい子だ。
少し嫉妬が過ぎるだけで。
太一はこれをわかっているだろうか。
「あ、ううん。大丈夫。……一つ聞いてもいいかな」
「大丈夫ですけど」
「……思い出したくない記憶とか、ある?」
「え?」
ぱっちりした目をしばたたかせてあたしを見る。
「……そりゃあ、ありますよ」
「今思い出せって言ったら、思い出せる?」
「無理ですよ……。思い出したくないってことは、言わばトラウマみたいなものですよね。頭がおかしくなるくらい嫌な」
「そうだね」
「思い出したくないことは、直に思い出せなくなります。頭がおかしくなるのを必死に抑えて、その記憶に蓋をするんですから」
えらく抽象的な質問だったのに、それだけで麻尋ちゃんはあたしが言いたいことをなんとなくでも理解したらしい。
頭の回転が早い子だ。
「つまり、その記憶は消えたわけではない。自分の頭の中に眠ってるだけ……」
「あの……唯織さん、何か?」
「あ、ごめんね。いきなり変な質問しちゃって」
「……別にいいですけど」
時計を見ると、八時半を回っていた。