急性大好き症候群
「……太一」

「何?」

「なんであたし、ここにいるんだっけ?」

「忘れたの? 数学教えてって俺が呼んだの」

「あ、……そうか」


そうだった。


裕也と別れてから既に二ヶ月。季節は初冬。


十一月に入ってすぐにあった模試では、太一の大岩田高校の判定はBからAに上がっていた。


中学生の模試はSが最高で、その下にAからDが続く。


Aに上がったといっても油断はまだまだできない。大岩田高校の倍率は毎年一・五倍前後であり、志願者は県内でも多い方だ。


合格を安全圏に入れるには、一月の受験前最後の模試で最高のSランクに入れる必要がある。


ここで太一を引っ張っているのはまだ数学だった。


数学への拒否反応は消えて、問題も半分以上は解けるようになった。


それでも取れるのはまだ五十点代。夏の目標は五十点以下を取って落とされることを避けることだったけど、これからはその次の段階、受かるか落ちるかの戦いで勝たなければ意味がない。


その鍵を握るのが、太一にとっては数学だった。


他の四教科は合格ラインに達している。特に国語と英語は本人の言った通り、毎回九割近くは確実に取っているからすごい。


「数学を六十点代に乗せれば、たぶん大丈夫なんだけど」

「確実なのは?」

「国語と英語をこのままで、数学と理科と社会で七十五点取る」

「辛いなー」


太一がうーんと唸る。


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