急性大好き症候群
「じゃあ唯織、処女じゃなかったんだ」


目の前の男がすごいことをあっさりと言いのけたもんだから、あたしは口の中のご飯を吹き出しそうになった。


「ちょっと、太一、ご飯中」

「嫌?」

「あまりいい気はしない」


思わず太一の唇に目がいく。


さっきの自分の行動に嫌気がさす。


……寝込み襲ってすみません。


それから一時間後、あたし達はさっきまで寝ていたローテーブルで向かい合ってご飯を食べていた。


あれからしばらく寝顔を眺めていたら、不意に起き出した太一に「なんで起こしてくれなかったの」と怒られ、そのタイミングであたしの腹の虫が鳴って、「ご飯食べていきなよ」と笑った太一の言葉に甘えることにした。


いつも多めに親が残していくと言って分けてくれたのは、白米と味噌汁と回鍋肉。


そういえば、太一の家でご飯をご馳走になったのって初めてかも。


そして、食べながらあたしは裕也と別れた時のことを話していた。


別に太一に何かを求めたわけではない。ただ、なんとなく聞いてほしかったのだ。


「そこまでされてさ、よく元彼の前で平然といられたよね」


太一の口が絶え間なく動く。時々ちらっとあたしを見る瞳がなんだか憎らしい。


完全に眠りからは覚めたらしい。


「怒ってたからかな、元彼にそんなことをされたっていう考えがなかった」

「ふうん。ま、でもよかったんじゃない」

「まあね」


短く答えて味噌汁を啜る。


< 138 / 198 >

この作品をシェア

pagetop