急性大好き症候群
太一に連れて来られたのは中庭。


太一の手があたしから離れた瞬間、あたしは太一の頭を拳で殴った。


「……殴るなって言ったのに」


太一が頭を抱えて呻く。


「いきなりあんなことされておとなしくできるわけないし。ちゃんと説明して」

「なんだよ唯織、キスなんて初めてじゃねーだろ」

「初めてだよ」

「は?」

「太一とは」

「……ああ」


太一は地面に座り込み、「どうもすみませんでした」と頭を下げた。


「で、あれは一体何のため?」

「取り巻きから逃げるため」

「あんた、もう取り巻きできてんの? モテるねえ」

「彼女がいるって知ったら、諦めてくれるかなと」

「それ、言えばいいじゃん」

「あいつら、言っても信じてくれないんだもん」

「……めんどくさいタイプの取り巻きか」


意外に太一も苦労してんのね。


「……それにあたしを巻き込まないでくれる? そのあんたの取り巻きに恨まれたくないんだけど」

「大丈夫。周りから唯織の顔は見えないようにキスしたから」

「そういう問題?」


いや、そりゃそういう配慮はありがたいですけど。


追いかけられてたのにずいぶん余裕だ。


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