急性大好き症候群
さっきとは感触の違うキスが降ってきたことも、すぐには理解できなかった。


太一……あの夜のこと、覚えていたんだ。


少しだけ、嬉しい。でも、空しい。


あたし達が初めてキスを交わした夜。


あたしは一生、忘れないと思う。


あたしだけが覚えていればいいと思っていた。


だって、太一にはあんなことを抱えるには重すぎる。


太一には麻尋ちゃんがいる。それだけでいい。


太一は麻尋ちゃんだけを見ていればいい。


太一は今、多分苦しんでいる。


あたしの唇を太一が啄むように何度も重なってくる。


「太一……やっ……」


わずかに離れたすきに口を開くと、太一の舌が咥内に入ってくる。


あたしの口の中を這って、あたしの舌に吸い付く。


抗うこともあたしにはできない。好きだから。本当は密かに、これを求めていたから。


なんてあたしは、最悪な女なのだろう。


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