急性大好き症候群
「唯織には悪いことしたって思ってんのよ、今でも。だから、唯織には幸せになってほしいの。そのためにも、太一くんとはけじめをつけてほしいの」


あたしは何も言わなかった。たぶん美紗を責める言葉が出てくるから。


美紗は彼女のいる男を好きになったって仕方ないから、他の恋を探しなさいと暗に言っているのだ。それはわかる。無謀な恋だとはあたし自身が一番わかっている。


彼女から奪う気もない。諦める気もない。今のあたしは八方塞がりだ。どうしようもない。希望なんか見えてこない。


それでも好きになってしまったのだ。この気持ちをどうしろというのだ。


彼女から太一を奪えるのならとっくにそうしている。


でもできない。あたしは弱いのだ。麻尋ちゃんと太一の仲をあたしの手で壊したくはなかった。二人を知っているからこそ、二人にはずっと仲良くしてほしい。


今のあたしが他に男を見つけて好きになれるのならとっくにそうしている。


でもそうしたくはなかった。怖かった。太一への思いが消えることが。ずっとあってほしいと思った。


太一ともっと近づきたい。でも、二人には仲良くしてほしい。あたしの気持ちはその狭間で揺れていて、あたしは卑怯な女なのだ。


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