急性大好き症候群
「唯織」


そして、あたしはその声で名前を呼ばれるだけで周りが何も見えなくなる。


呼ばれた。振り向く。


十二月にもなると、放課後も教室は人が多い。教室にいる全ての人が机にかじりついているクラスもあれば、何人かがたまって雑談しているクラスもある。


あたしがそんな静かな教室から出た直後だった。


「……太一」


太一の顔を正面から見たのは久しぶりだった。


ここ最近、太一を見かけることはあってもずっと横顔だけを見てきた。


「今、時間ある?」

「あたし、受験生なんだけど」


太一から逃れたくてとっさに嘘をついたら、腕を掴まれた。


「……何?」

「嘘つき」

「は?」

「こっちには弘樹という強力な味方がいるんだけど」


チッと舌打ちする。


すっかり忘れていた。


家で毎日一緒にいる弟とこの男が親友だということに。


弘樹は家族の会話にあまり入ってこないタイプだけど、毎日顔を合わせているのだ。姉の進路くらい知ってて当然だ。


「ちょっと、付き合ってよ」


太一があたしの腕を掴んだまま歩き出す。あたしはそれに着いていくしかなかった。


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