急性大好き症候群
連れて行かれたのは太一の家だった。


太一は黙ったまま二階の自室にあたしを入れた。


「……一体、何?」


今まで話しかけてこなかったくせに。


今更、太一があたしに何かあるようなことがあっただろうか。


「まあ、話し相手になってよ」


太一が床に座るから、あたしは太一と少し距離を置いて座った。


「話し相手? それなら弘樹でも他の友達でも誰でもいいじゃん。なんであたしが」

「他の奴には言いづらいことなんだよ、弘樹にも」

「あっ、そ……」


そう言われてしまっては何も言えない。


「あ、唯織、合格おめでとうございます」

「ああ、ありがとう」

「何その、嬉しくなさそうな感じ」

「実感がないのよ。一人で早々に決まっちゃったから」

「大学に行く気はなかったの?」

「ない」


同じような質問なら数えきれないくらいされた。説明する気も萎える。


あたしの表情でそれがわかったのか、太一は「ふうん」と頷いただけでそれ以上は聞いてこなかった。


「じゃあ、唯織、もう学校来ないの?」

「まあ、卒業までの出席は足りてるから、もう行く必要はないんだけどね」


口にすると、もう行かなくていいかなという気になってきた。


美紗に来てと頼まれない限り、もう行くのやめようかなあ。


急にめんどくさくなってきた。


「弘樹から聞いたんでしょ?」

「うん。おかげで家は受験直前の暗い雰囲気にならなくて済むってさ」

「家の雰囲気がどうなろうがあいつにはどうでもいいくせに。家じゃ全然喋んないんだから」

「心配してくれたってことじゃねえの?」

「ふうん」


まあ、それが兄弟ってものなのかな。


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