急性大好き症候群
え、何?


そう言いたくても声が出ない。


あたしの心臓が勝手に大きく鼓動を打ち付ける。


なんで?


一方であたしの頭はわけがわかっていない。


これは一体何?


熱い吐息が耳を撫でて、腰回りを固められて、あたしはようやく太一に抱き締められているのだと理解した。


……って、なんで?


「太一……?」

「麻尋がさ」


耳のすぐ傍に太一の唇がある。


太一はあたしの肩に顔を埋めていた。


「……不感症、なんだって」

「え?」


太一の声はわずかに震えていた。


「俺としても……痛い、だけだって」

「……麻尋ちゃんが言ったの?」

「ん……」

「……いつから?」

「最初から……」


我ながらどぎついことを聞いたけど、太一はちゃんと答えた。


ちょっと待って。……最初からって。


「太一……初めてって、確か」

「去年の、八月……」


そこで太一があたしの体をきつく締めてきた。


え、と、つまり……。


思うように動かない頭を必死に動かす。


「一年以上も我慢してたってこと?」

「ん…………」


この時の太一の声は既に消えてしまいそうだった。


あたしは軽く混乱していた。


麻尋ちゃんが今まで言ってこなくて、ようやく本音を口にしたとき、どれだけ辛かっただろう。


いや、その前に、一年以上も痛みを我慢して太一に抱かれてきた麻尋ちゃんの苦しみは計り知れない。


太一は麻尋ちゃんに聞かされるまで、麻尋ちゃんの痛みに気付いていなかっただろう。それを知ってしまった太一の苦しみも……。


「感じなくてごめんねって……泣きながら謝るんだよ……。俺一人で、一体何してたんだって…………なんで今まで気付いてやれなかったんだって…………」


最後の方はもう泣き声に変わっていた。


あたしは何も言えなくて、ただ太一の背中に手を回した。


太一の苦しみが痛いくらいあたしに伝わって来る。唇を噛み締めて、それでも漏れてしまう声に、あたしは心を痛めた。


それでもあたしは何も言えない。気の利いた言葉なんて出てこない。


慰めも同情も、言葉にすると何か違う気がした。


太一の涙があたしの肩を濡らす。


あたしは……無力だ。


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