急性大好き症候群
そして、いつか地獄に落ちるとわかっていても、あたしはこの男の誘いを断ることはできない。


体を起こすと気怠さが全身を包む。一糸纏わぬ自分の姿を見ると、何をしているのかと自分に呆れる。


「麻尋……」


あたしの隣には寝ている太一。


さっきまで部活をやっていたし、疲れているのだろう。


太一の頬をなぞる。今日も涙の跡が残っていて痛々しい。


普段ならできないようなことも、寝ていればこうも容易くできてしまう自分が憎い。


太一はあたしを抱きながら麻尋ちゃんを思っている。


世間的に見れば最低な男だ。でも、そうしないと太一は壊れてしまう。重いものを一人で抱えきれるほど太一は大人じゃない。


そして、あたしはそんな太一に自分の身を捧げる愚かな女。


一瞬でもあたしを求めてくれればいい。例えあたしが麻尋ちゃんの代わりだとしても。


「太一……」


呟く。そして、あたしの声は太一には届かない。


これが現実だ。


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