急性大好き症候群
「たたいまー」


それからすぐ家に戻って玄関に入ると甘じょっぱい匂いが鼻をついた。


「母さん、今日は鶏肉の南蛮炒め?」


台所に顔を出すと、母がフライパンと対面していた。


「よくわかったわね」


母が振り向く。あたしといても親子とは思われないほど、あたしは母に似ていない。


「玄関まで匂ってきたから」

「相変わらず鼻がいいのねえ」

「それ、褒めてる?」

「おねーちゃん、おかえりー!」


後ろから軽い衝撃が走る。振り向くと、あたしの腰ほどまでしかない身長の女の子が後ろから抱き着いていた。


「詩織(シオリ)、ただいま」

「きょうね、まーくんがね、しおりにおてがみかいてくれたのー!」

「まさか、ラブレター?」

「うーんとね、すきです。けっこんしようねって!」


ラブレターですね。


詩織がスカートのポケットから画用紙を広げてみせた。二人の女の子と男の子が手を繋いでいる絵とその上に「すきです。けっこんしてください」とでかでかと書かれていた。


「よかったねー、詩織」

「うん!」


あたしが頭を撫でると詩織が満面の笑みを見せる。つられてあたしも笑う。


詩織は12歳年下の妹だ。


詩織が生まれたのはあたしが小六の時で、母が妊娠したと聞いたときはそれはそれは家族全員が驚いた。


同じ母親のお腹から生まれたというのに、あたし達兄弟は三人とも母に似ていない。全員父親似だ。


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