急性大好き症候群
弘樹の言葉の意味を理解したのは、そんなことを弘樹と話したことすら忘却の彼方に放り出した、年が明けてからしばらく経ってからだった。


二月になると、私大受験が毎日のようにあって、受験生は自由登校になる。


あたしはもう行かなくてもいいけど、なんだかんだで毎日学校に行っていた。美紗に勉強を教えたり話し相手になったり、太一とたまに廊下で会ったり。


「はい、唯織、チョコ」


そして、美紗に板チョコをもらうまで、今日が何の日かなんてすっかり忘れていた。


「あ、今日バレンタインか!」

「え、今思い出したの!?」


女の子のビッグイベントを忘れるなんて、あたしはなんて女子力が欠如しているのだろう。


「じゃあ、チョコ、用意してないの?」

「美紗だってこれ、バレンタインの時期になると68円で売ってる板チョコじゃん。代わりにいつも持ち歩いてるミニチョコで勘弁してよ」

「え、そんなのもらったことないんだけど」

「美紗の前で出すわけないでしょ。30分ももたずに一袋なくなる」


あたしは鞄の中からお菓子の袋を取り出して、チョコを三つ美紗に手渡した。


「そうかあ、バレンタインかあ」


裕也と付き合ってた一昨年も、太一を思ってた去年も、男子にはあげなかったっけ。


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