急性大好き症候群
顔を上げると、赤い打ち上げ花火が夜空に一瞬咲いて消えた。


あたしは二人がいる反対の方に歩き出した。


見たくなかった。


これは美紗が悪いのか。それとも、目撃してしまったあたしが悪いのか。


なんで裕也がいるのだろう。


美紗が呼び出した以外思いつかない。


裕也の地元でもないこんな小規模なお祭りにわざわざ足を運ぶ人なんて、よっぽどの祭り好きか、はたまたどっかの変質者だ。


あたしは今日美紗とここに来るなんてこと、裕也に伝えていない。


当たり前だ。何ヶ月音信不通だと思ってんのよ。


メールや電話には答えず、教室でたまに話す程度の冷めきった関係なのに。


頭上では花火が打ち上がる乾いた音が途切れることなく響いている。


この花火を見ながら美紗が裕也と笑い合っているのを想像するだけで気分が悪くなった。


もう、帰ろう。


あたしはここにもう用事などない。いる義務もない。


人の間を早足で通り過ぎ、敷地から立ち去ろうとした。


「あれ、唯織?」


最近ごく聞き慣れた声が後ろから聞こえてきた。


今日は奇跡がよく起こるものだ。


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