急性大好き症候群
「太一」


足を止めて振り向くと、太一がイカ焼きを口に加えながら左手を上げていた。


「彼女はどうしたの?」


まさか、一人で来たとかあほなことはないだろう。


「唯織こそ」

「わざと言ってんのかな?」

「おお、怖い怖い」

「ちょうど浮気現場を目撃したところよ」

「うわ、最悪。唯織、タイミング悪いな」

「どうとでも言って」

「まあ、俺も似たようなもんかな」

「は?」

「麻尋がさ」


太一がふっと笑った。


「最初は一緒にいたけど、同じクラスの男見つけたらそいつのとこに行っちゃって」

「堂々と浮気されたね」

「あいつ嫉妬魔だからさ、たまには俺にも嫉妬させたいんだって」

「ふうん」

「可愛いよなー」


そう言う太一はなんだか嬉しそうだ。


「喜んでんの?」

「まあ、他の男といていい気はしないけど。一途なんだよな」


なんか、惚気られた。


「俺ん家、来る?」

「え?」

「どうせもう帰るんだろ? ちょっと付き合ってよ」

「家、一人なの?」

「うん。あ、今日は指導なしね」

「別に、いいけど」


太一があたしの前を歩き出す。あたしは太一に続いた。


< 89 / 198 >

この作品をシェア

pagetop