絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 軽く淡々と放ってみせたが、一番の話の核心であった。
「お前が他の女にはない何かを持ってるんならいいんじゃない?」
「何かって、例えば何?」
「例えば……そうだなあ。なんでも言うこと聞いてくれても、飽きるしな。きかなすぎてもうっとうしいし」
「…………」
「かといって、どうせこういうのがいいっていっても、お前にはできないだろ? そういう駆け引き」
「……わかんない」
「どうせお前にはできねーよ。他人の駆け引きにすぐに乗って泣いてるの、いつもじゃん」
「そんなこと、あったっけ?」
「いつもじゃん! 忘れたのかよ、っていうか、自覚ねえのかよ! 榊の途中で鬱陶しかった学生、電話してきたの、忘れた?」
「昔の話じゃん!」
「じゃあ聞くけど、あれからそんな変わった?」
 夕貴の目を見ながら思い出す。その昔、そんなこともあった。
 榊に夢中だった19の頃、同じ大学の先輩に気に入られ、何も考えずにあれよあれよと誘われるがまま、気軽に食事に行った末、ホテルに連れ込まれた。相手がシャワーに行った隙、電話をかけた先が夕貴だった。当時既に仕事をしていた夕貴は、抜けてタクシーで迎えに来てくれた。今となれば懐かしい思い出だ。
「変わったと思うけど」
「……まあ、周りから攻めるようになったのは、成長した証拠かな」
「直じゃいけない相手」
「気ぃ遣える相手ってのも悪くはないんじゃない?」
「うーん。あのさあ、さっきから考えてたんだけどさあ」
「何?」
 夕貴はこちらをじっと見つめて身構える。わりと保守的なのだ。
「ジムってどこのジム?」
「ジム? 巽さんと会う? 東都ホテルのジムだよ。2回くらい見たかな。頭下げたくらい」
「誰でも行けるの?」
「200万払えば行けるよ」
「えっ、ジムに一回200万!?」
「んなわけねーじゃん、入会金だよ! 頼めばすぐ作ってくれるだろ? 意中のオーナーなら」
「……」
 そういうおねだりをするつもりはない。
「やっぱ置いてる器具が違うの?」
「行ってる人が違うんだよ。俺みたいな人じゃなきゃ行けない」
 ツンと澄まして、鼻で笑った。
「嫌味で失礼な経営者ね」
「普通のオーナーだよ」
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