絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 言われれば、納得してしまう。
「どうしよ。行こうか……」
 200万、通帳にないことはない。
「貯金くずして行くようなとこじゃねえよ」
 夕貴はすぐに見透かした。
「年会費もかかるし、社交場だから。昨日のテレビのコンビニのプリンがとかいう話するくらいなら行かない方が遥かにマシだ」
 夕貴は我ながら納得したのか、
「遥かに」
 と、付け加える。
「けど、あの人がどんなとこ行ってるのか、知りたい」
「本人に言えばいいじゃん、行きたいって。一緒に」
「なんか、おねだりみたいでヤダ。200万払ってってことじゃん」
「じゃあ行かなくてもいいじゃん。どうせろくな話もできないんだし。一緒に行ったって恥かくだけだよ」
「ひど……」
 さすがに溜息をついて落ち込んだ。
「農林水産大臣の名前は?」
「え?」
 なんだ突然、と思いながら、目を見る。
「歴代のとは言わないから。今の名前」
「…………」
 思い出そうにも、そもそも覚えていない。
「今日の新聞も見てないような奴が行くところじゃねえよ。そして新聞くらい読め。飽きられるぞ、そのうち」
それとこれとは関係ないと、言おうとして、やめた。そういう人にはそういう身の丈に合った人がいるという事実を教えてくれているのだ。
「会員証があったら、誰でもいいの? 貸し借り禁止?」
 最初からずっと思っていたことをようやく聞いた。
「俺のは貸さない」
 相手も予測していたのだろう。即答した。
「一回だけ貸して?」
「ダメだって言ってんだろ? そういうのは、それこそ彼氏に言え」
「彼氏じゃないもん。彼氏じゃないと思う。私、不安とか、そうゆんじゃなくて、今、あそこにいるのが本当に正しいのかどうか分からなくて。
 好きなんだけど、そうじゃないような。
 なんか、違うとは思うの。そう、夕ちゃんが言うように、合ってないんだとは思う。待ってて、エッチするだけのような、そんな風にしか思えない時もある。というか、それが
大半な気がする……」
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