絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 黒崎は笑った。
「俺といる時は財布なんていらないよ。そういやこの前ビトンの新作が出てたな。後で買い物も行く?」
「えっ、いえっ、あの、そんなつもりでは……」
 本当にそんなつもりでここへ来たのではないし、着いて行くつもりもない!
「でも先服だけ変えようか。今日行く所は人多いから」
 今日は少し気にして、ベージュのパンツに半袖の淡いブルーのカットソーにしたが、かかといってそれで高級料理店に行けるのかと言われれば、悩んでしまう。やはり、お金持ちの前ではバックも服もいい物でなければ食事も一緒に行けない。
 一旦、かなり落ち込んでから、この人には関係ない、と気を元に戻す。
 時刻は既に9時を回っている。相手の言うまま、今から服を買って寿司にすると、恐ろしいほどいい時間帯になってくる。
「今日は俺の趣味でいい? うーん。ワンピースがいいかな」
 ちょっとほんと、ほんとこの視線ヤダ……。
「もう着くからね。あんま時間ないし」
 ならもうどうでもいいじゃん……。
 しかし、断り方も分からず、言われるがままに2人を乗せた白の車は、先に進んで行った。
大通りに面したブランド専門店街は、時間の割に人が入っていて、普段あまりこの手の店を利用することがない香月にとってはとても新鮮だった。品の位置もよく分からず、すぐに黒崎相手に接客に入る定員に緊張する。
隣に付いているだけの香月は、黒崎の言われるがまま一枚のワンピースを試着し、
「かっわい。それ払うよ」
 と、適当なんだかどうなんだが、とりあえずお世辞を言われ、カードで一括払いでワンピースとハイヒールと揃いのバックを計15万で買った。
 これはやばい、これはヤバい……。相手が上機嫌なのが、余計怖かった。
 続いて、寿司屋に急ぐ車内で
「あの、私、こんな高価な……」
 今更だが、新品だし、今なら返品できると思い切って反対しようとした。
「安物でごめんね、今は間に合わせだから」
「いえあの、こんな高価な物、買って頂いても……」
 何もお返しできませんし、と言おうとしてやめた。つまり、このお返しを何かしらしなければいけない時が必ず来るに違いないと確信したからである。
「いーの、いーの。俺がよくて買ったんだから。気にしないで、そのくらい」
 気にするしぃ!!
< 114 / 318 >

この作品をシェア

pagetop