絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 会員証のせいだろう、一番高級なところから攻めてくる。
「いち、おう……」
「ふーん……。じゃあ夜まで大丈夫? 明日仕事?」
 何の質問なのかが分からなくて、
「明日は仕事です」
 それだけは正直に言う。
「明日に響くといけないしね、今日はこのくらいにしとこうか」
「えっ、あっ、そうですね……」
 初めて相手の意見にうまく同意できた。
「今度はジムの会員証、作っとくから」
「えっ!?」
「なかなかよかったでしょ。汗かくの」
「えっ、いえっ、ちょっとあの、そんな困ります! あんな高価な……」
「高くないよ。愛ちゃんが使うのなら」
 え、ちょっと待って。
「……」
「男、いんでしょ?」
 顎をつかまれて身動きがとれなくなる。
「俺に、乗り換えなよ」
 何の断りもなく、唇に唇を触れてくる。
「来月俺の誕生日なの。指輪買おうか、ティファニーのペアリング」
「えっ、ちっ……」
 暗い車内で急接近され、相手の息が耳元にかかった。
「あのっ、私っ……」
「いいよ、迷わなくて」
 迷ってなんかない。
 相手は体を離すと、胸ポケットから名刺ケースを取り出し、一枚出す。
「これ、俺の番号。後ろの手書きの方にかけてくれればいいから」
 既に裏に手書きされた名刺をあらかじめ持っているとは驚きだった。
「愛ちゃんの番号は分かるから。こっちからかけたい時はかけるね」
「え、何でわかるんですか?」
 更に恐ろしくなり、顔を顰めた。
「分かるよ、そんなもんだよ。携帯番号なんか」
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