絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 はったりなのかどうなのか、黒崎は薄く笑うと、ハンドルを握った。
「えっと、東京マンションね」
 意識しない間に自宅を知られていることに、今更ながらショックを受ける。
「面白いの? ルームシェア」
「まあ……」
「どういう流れで? あれってなかなか理解できないんだよなあ。あそこに申請してたの?」
「いえ、私は誘われて……」
「ただで住んでるの?」
 とみられるのだから仕方ない。
「はい」
「それが彼氏?」
「いえ、その人はなんというか、ただ友達になりたかっただけなんだと思いますけど」
「ふーん。なかなか手ごわいのな、愛ちゃんって」
「へ?」
 あなたほどではと、言いたくてやめた。
「いや、俺は男女の友情ってあんまり信じてないから」
 思いついて言った。
「マリーさんとは友達じゃないですか」
 自分で言って笑った。相手は爆笑しながら、
「ね? 俺、男女の友情信じない主義なの」
「マリーさんすごいですよね。よくテレビに出てます」
「けど実物見たら違うでしょ? 衣装映えするんだよね。ジムの後はただのおっさんだよ」
「でも、やっぱりすごい美容とかに力入れてるんでしょうね。確か、40過ぎてませんでしたっけ?」
「過ぎてないない。年逆にさばよんでるから。その方が受けるんだとさ。年齢売ってるとか言って」
「へえー、芸人魂ですね」
「ちょーっと違うと思うけど(笑)。面白いね、愛ちゃんって。喋ると」
 しまった、つい……。
「いえあの、マリーさん、衝撃的だったもので……」
「良かったら他の芸能人も呼んでパーティとかする?」
 いえもう芸能人は十分です。
「……芸能人って個性強くて大勢いたら大変そうですよね」
「けど面白いよ。決まりね、今度パーティしよう。うちの店で」
 うわ、そういう方向では……。
 まいったなあ……。
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