絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ

甘く切ない同棲生活

 力がだらりと抜けるほど大きく溜息をついても、それが誰のためなのかは自分でも分からない。
 白いポルシェの男、黒崎のことは、後で夕貴から何か情報が得られればと少し思ったが、
「だから会員証貸すの嫌だって言ったんだ!」
と怒られるのが怖くて名前はおろか、その人物像も出すことができなかった。
 にしても、ろくなことがない。そもそも巽の浮気を調査するために、わざわざ仕込んで会員証まで借りて潜り込んだはいいが、逆に自分が、浮気ともとられかねない相手と食事にまで行ってしまうなんて。
 人を疑うということは、そういうことなのかもしれない。
 次、巽に会えたらきちんと話をしよう。
 だとしたらどんな話にしよう。考えながら、今日も深夜零時を回る。零時を回っても起きていればそのうち会えると思っていた頃が懐かしい。今はきちんと学習して、巽が帰るのを待つこともなく、自分のペースで寝る準備を始められる。
 ところが、その日はどうしたことか、寝室に入る手前の廊下で玄関の鍵が開く音が聞こえ、慌てて駆け寄った。
「どうしたの!?」
 驚きと、喜びを隠せずにはいられない。
「ここは俺の家だ」
 出迎えに何の反応もせず、ばっちりスーツで着込んだ巽は靴を脱ぎながら答えた。
「そうだけどぉ」
 思い余って、ぎゅうっと抱きつく。
「えー、なんでなんでぇ? 何で今日は帰って来てくれたの?」
「顔を見に帰って来たとでも、言ってほしいのか?」
 ふふんと笑って見下されたが、仕方ない。事実なのだから。
「えー、ねえ、久しぶりぃ」
 香月は構わず、巽がそのままソファに腰かけるよう促す。
「何が久しぶりだ」
「だってこの前会ったの……4日くらい前だよ?」
「いいペースだ」
「うそぉ」
 そのまま、抱っこされにいく。首に腕を回し、ぎゅっと抱きついて、今までのことをすべて忘れる。
「明日休み? 明日休み?」
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