絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「……」
 彼はそのままベンチにも座らず、立ったまま。
「えっ、そんな、私一人だけ食べられませんよ! せめてここに座って下さい」
「……」
 風間はそれには答えず、護衛のつもりなのだろう。ベンチの横に立ち、何かを監視している。
「……」
 香月は仕方なく、エクレアと、ハンバーガーをバックの中に丁寧にしまい、ジュースだけ持って立ちあがった。
「行きましょう」
 風間は必ず付いてくる。そう信じて後ろを振り返らない。
「食事は他でとるんですか?」
 予想通り、彼はすぐ後ろをキープした。
「とりません。風間さんが食べないのなら。
 私は……風間さんのことを普通の友達というか、知り合いというか、とにかく、一緒に食事くらいしてくれる人だと思ってます。だから、風間さんが食べないのなら、食べませんし、一食くらい抜いたって平気です」
 言いながら、ジュースを一口飲む。
「……私が食事をとらないのは、勤務中だからです」
「……」
 香月は、止まりそうになる足をなんとか、動かすことに成功する。
「……そうかもしれないけど……」
 勘違いしてるのは私だけ?
「……」
 いや、そんなことはない。
「一緒に遊園地に遊びに来てるのに、一人だけ食事をするなんて、私はできません」
 言いきって、ガイドブックに目を落とした。
 その後、7枚綴りの券を使い切った頃には、どの乗り物も待ち時間が一時間以上に膨れ上がっており、ここで一旦香月は、落ち着いて休憩をとることに決めた。
 普段ショーが開かれている港風の観覧席ががら空きなのに気づき、香月は
「ちょっとここに座りましょうよ」
 と、優しく提案してみる。
「座らないっていうのなら、ここに立ってましょう」
 香月は、風間の様子を見て、観覧席の一番前、本来なら立つことができない位置に立ち、何をするでもなく、胸まである柵に手をかけた。
「はあ……、あ! ちょっと待ってて下さい」
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