絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 香月は急いで冷蔵庫を確認する。そこには、食パン、卵、ハム、野菜少々、調味料など、朝ごはんができる程度の物しかない。メインになるような、肉や魚は一切なかった。
 ここへ来てからというもの、夕食は100%ルームサービスである。巽もそれで満足するだろうと思っていたのに、それがまさか、こともあろうに手料理をこんな深夜に食べたいだなんて、香月にとってはまさかの展開だった。
 どうしよう。着替えてリビングに来て、何もなかったではがっかりするにちがいない。かといって、ルームサービスでは味気ないし、ああ、こんなことなら先に電話くれればいいのに!
 せめて食材を買いに行こう。
 近くの24時間スーパーならタクシーで往復10分……買い物に10分。合計、食材集めに20分はかかるが、それでも誠意をみせなければと、香月は高速で着替えて財布だけを手に持つ。
「ちょっと買い物行ってくるから!」
 巽の部屋の前でそれだけ言うと、走って玄関を出た。
 何を買おう。何を作ろう。カレーくらいならすぐ作れるだろうか。あ、料理の本! ネットでレシピを検索する間がないから、本をまず買わなければならない。スーパーのレジの近くに本が置いてあった。主婦向けの料理本もそこにきっと置いてあるだろう。
 マンションに常駐しているタクシーに乗りこんでからも更に続きを考える。
 まず先に本を買わないと、材料が分からない。玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、肉。肉は何肉だろう。牛? 鶏? 豚? ささみ?
 あそうだ、携帯で検索して時間を短縮しよう。
「……携帯忘れた……」
< 120 / 318 >

この作品をシェア

pagetop