絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
カレーに気をとられていて、白米を炊くのを忘れていたことが問題ではない。そもそも、カレーという煮込みに時間がかかるメニューが悪かったせいでもない。
あの夜、巽は「まだ仕事がある」とそれだけ言うと自室に籠り、朝になっても、決して顔を出さなかった。
あれが、巽なりの嫉妬の仕方だろうか?
いや……嫉妬にすら値しない関係かもしれないのに……、大げさか。
寝不足の中、仕事をこなし、岐路に着こうとしている中、溜息を大きくつく。新東京マンションに帰ることが辛いと、また感じ始めている証拠だった。
巽と喧嘩したからではない。
帰って来るかどうかも分からないのに、何日も待ち続けている疲れからきたのかもしれなかった。待たせている方は待っている気持ちなんか分からない。どうせいつも待たせている巽なら余計だ。今まで、女性を待つということもなかっただろう。
溜息は重い。ジュエリーショップのショーウィンドウに展示されたネックレスを眺めた。
これが欲しいとねだれば、買ってくれるかもしれない。10万程度なら余裕だろう、100万でも何とも思わないかもしれない。けど、一千万の家を買ってと言えば、どう返答するだろうか。
「誰と住むのかって話になるから」
と言ったのは榊だ。今なら分かる。榊と自分は合ってはいなかった。あんなにも好きだったのに、全く性格を合わせることができず、自分で自分を傷つけ、悲しみに悲しんだ果ての無常な状態に至る。誰の、何のせいでもない。
巽とはどうなのだろう。いつか、合わなかったということが、分かるようになるだろうか?
さっきからずっとバックの中で携帯電話が鳴っていた。耳には届いていたのに、出なければいけないということを察知したのは、鳴りはじめて一度途切れた後だった。それほど、巽への想いに思考を巡らせていた。
ようやく携帯を開き、履歴を確認する。表示されたのは、登録のない番号。
暇つぶしにかけてみる。通販で商品を注文した覚えはない。ということは、会社からの連絡かもしれないし、間違い電話かもしれないし。
だが、コール音を一度聞いた後、もしかしたら黒崎の電話ではないのかと思い直し、画面をもう一度確認しようとしたところで、相手と繋がった。
「もしもし」
あの夜、巽は「まだ仕事がある」とそれだけ言うと自室に籠り、朝になっても、決して顔を出さなかった。
あれが、巽なりの嫉妬の仕方だろうか?
いや……嫉妬にすら値しない関係かもしれないのに……、大げさか。
寝不足の中、仕事をこなし、岐路に着こうとしている中、溜息を大きくつく。新東京マンションに帰ることが辛いと、また感じ始めている証拠だった。
巽と喧嘩したからではない。
帰って来るかどうかも分からないのに、何日も待ち続けている疲れからきたのかもしれなかった。待たせている方は待っている気持ちなんか分からない。どうせいつも待たせている巽なら余計だ。今まで、女性を待つということもなかっただろう。
溜息は重い。ジュエリーショップのショーウィンドウに展示されたネックレスを眺めた。
これが欲しいとねだれば、買ってくれるかもしれない。10万程度なら余裕だろう、100万でも何とも思わないかもしれない。けど、一千万の家を買ってと言えば、どう返答するだろうか。
「誰と住むのかって話になるから」
と言ったのは榊だ。今なら分かる。榊と自分は合ってはいなかった。あんなにも好きだったのに、全く性格を合わせることができず、自分で自分を傷つけ、悲しみに悲しんだ果ての無常な状態に至る。誰の、何のせいでもない。
巽とはどうなのだろう。いつか、合わなかったということが、分かるようになるだろうか?
さっきからずっとバックの中で携帯電話が鳴っていた。耳には届いていたのに、出なければいけないということを察知したのは、鳴りはじめて一度途切れた後だった。それほど、巽への想いに思考を巡らせていた。
ようやく携帯を開き、履歴を確認する。表示されたのは、登録のない番号。
暇つぶしにかけてみる。通販で商品を注文した覚えはない。ということは、会社からの連絡かもしれないし、間違い電話かもしれないし。
だが、コール音を一度聞いた後、もしかしたら黒崎の電話ではないのかと思い直し、画面をもう一度確認しようとしたところで、相手と繋がった。
「もしもし」