絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 巽はというと、スーツのおやじばかりと話している。何の話しをしているのかもよく分からないし、とりあえず、退屈だなあ……早く何か食べたいなあってそればっかり考えていた。
 30分くらいして、ようやく一息ついたのか、初めて目を合わせて喋ってくれる。
「……、疲れたか?」
 正面からよく見ると、今日は普段の3ピースではない。スカーフをして、おしゃれをしている。こんな姿は初めて見たと意識するだけで、視線を合わせられなくなるくらい、見惚れていた。
「おなかすいた……」
「少し食べてろ」
 あ、いいの?
 ようやく喜んで食事開始!! テーブルの上には所狭しと、様々な料理が並べられていて、どれもほとんど手をつけられていない。
では、とりあえず定番のカナッペから! うわあ、生ハムの上にメロンってまた定番の贅沢だなあ……次は何食べよう……ああ、ドレスじゃなくて良かった。ドレスだったら、遠くの物が取れないし、お洒落にしてなきゃいけないじゃん!
 と、ちょっと離れた場所にあるケーキを取ろうと手を伸ばし、にんまりした最高のタイミングで話しかけられる。
「ええと、巽社長の秘書の方だったかな」
 だだだただ、誰?
「え、あ、はい」
 食べたい気持ちを山々に、とりあえずケーキテーブルに戻し、相手の顔を見た。
「いやあ、それにしても今日は素晴らしいパーティですなあ」
 誰この人……全然知らない……。社長なのか、先生なのか、秘書なのか、それすらも見分けがつかない。
「あ、はあ……」
 なんとなく相槌を打ったが、もしかしてここは、ありがとうございますというべきなのだろうか!?
「それにしてもあなたはまだお若いのに、秘書とは関心です」
「え、いやあ……」
 ただのモグリです……。
「うちも今秘書が不足しておりましてね」
「はあ……」
「いやあ、いい秘書を探していたのですが、やはりいい人材には、いい秘書が当たるものですかなあ」
「……あ、いえ……」
 以外の言葉が見つからない!
「ところで、今度の選挙の件ですが、どうしたものですかなあ?」
 え、選挙……今度の?
「えっ、ええと……」
 何の選挙? あの人政治家もやってるの??
「いやあ、派閥争いが激しい中でなかなかねえ……」
「……そうですね……」
 なんとか声が出る。
「いやあ、なかなか私も苦しいところです」
 いや、苦笑いされても。
「はは……」
 酔ってんのか?
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