絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 ベンツを堂々と地下駐車場に停め、エレベーターで1階まで上がり、ロビーのソファで待機していると、10分ほどして、お目当てはばっちり目の前に現れた。一応、薄い色のサングラスをかける。
 へえ、なるほど。
 あのスーツは巽が与えた物だろう。本人の給料では、到底買えない物だ。
 隣に茶色い巻き毛の男が一緒にいたが、まあいい。
 附和は簡単に香月の前に、何にも怖気ずに出て行った。
「香月さんですね?」
 仕事用のダークスーツはこの場に充分溶け込んでいる。
「あ、はい」
 巻き毛もこちらを見ている。
「あの、巽さんから伝言を預かっていますので、ちょっとよろしいですか?」
「え?」
 驚いた瞳は機敏に瞬く。
「え、あ、はい」
「じゃあ先行ってるね」
 物分りがいい同僚だ。巻き毛はすぐに消える。
「えーと、まあ、ちょっとそこに腰掛けましょうか」
 サングラスの色は十分薄いので、相手にもこちらの目が十分見えているはずだ。
「あ、はい」
 ガラス張りになっているロビーのソファに堂々と2人は腰掛けた。
「実は伝言というのはですね、嘘です」
「え?」
 香月の表情は一変した。
 眉間に皴を寄せ、とっさにバックを強く握り締めている。
「もちろん怪しい者じゃありません」
 にっこり笑顔で対処する。
「僕は巽君の……まあ、幼馴染といいますか、そういう仲です。でまあ、香月さんという素敵な恋人がいると聞いて、ちょっと見たくなったのです。すみません、驚かせてしまって」
 素直に頭を下げた。
「え、いえ、恋人というか……」
 反応したのはそこか……。
「恋人ではないのですか?」
「いえ……、まあ時々遊んだりはしますけど……」
「ああそうなんですか」
 附和は大袈裟に笑った。
「ああ、良かった。いや、こんなに若くてかわいい人が恋人だなんてちょっと心配だなと思ったところですよ」
「え、心配?」
「あなたたちはいわゆる遊び仲間なんですね」
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