絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「すごかったですね! すごい、よかった。見に来て本当に良かった!」
 帰りの廊下で、一人興奮冷めやらぬまま思ったままを口にする。
「それは良かったです」
 風間は静かに答えた。
「すごくなかったですか? なんか感動薄いですよね」
「いいえ、感動しました。見に来た甲斐があったと思います。誘って頂いてありがとうございました」
 そうやって、少し頭を下げられると、そういうことを望んでいたのではないのに、と少し悲しい気持ちになってくる。
「え、いや……あ、お土産買って帰りましょうよ」
「私はいりません」
「奥さまにお土産買いましょうよ。あと、会社の人」
「……」
 無言の風間を背に、土産売り場の中へ香月はウキウキと入って行く。
 彼の会社の人数がどのくらいかは全く不明だが、とりあえず20個入りのを2箱と、家族用にホールのチーズケーキと、奥さんへのペアのキーホルダーを買い、後は自分の会社用と自宅用の2つを買う。
 土産売り場は一番人で混雑するが、風間は、ずっと後ろについて籠を持っていてくれた。スーツが目立つことに慣れたのか、極度の人ごみによって、服装など人々の目外視されているのか、とにかく本人たちは全く気にならなくなっていた。
「お支払いします」
 それが業務命令なのか、自分への土産だと分かっているからか、風間はレジでさっと財布を取り出した。さすがに数千円の値段になってくると、出してもらうのに悪い気はしない。
 全部レジに通し終え、香月の指示で販売員に袋を分けてもらった後、外に出た。
「はいこれ、人数何人くらいか分からないからとりあえず会社用のは20個のを2箱にして、後は家族用のチーズケーキと、奥さま用のペアのキーホルダーです」
「……」
 と、ミッキーのビニール袋を差し出しても無言で受け取らない風間。どうやら、自分の土産だとは思っていなかったようだ。
「受け取って下さい。今日、私が突然お誘いしたお礼です。風間さんは仕事かもしれませんが、私はプライベートで楽しかったですから、心からのお礼です」
 風間は仕方なさそうに受け取った。
「では……」
 それを本当に家に持って帰るか、会社に持って行くかは、不明。
「それにしてもおなかすきましたね、どっかで食べてから帰りましょうか。私の奢りで」
 風間ならその辺のパスタでも十分許してくれよう。
「いえ、巽様がホテルでお待ちです」
「え?」
「先ほど連絡がありました。ホテルで待っている、と」
「……ああ……」
 無言、無表情の風間を振り回してのディズニーランドが面白すぎたせいで、巽のことをすっかり忘れていた。
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