絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
だがもちろん今はその気持ちを精一杯制して20分ほど車を走らせ、国際ホテルに入る。
38階の一番奥。予約しているのは、和食レストランのビップ席だ。
もちろんそこに、巽は来ない。
「あれ、先に来てると思ったんだけどな……」
障子の奥にある8畳ほどの個室には真ん中にテーブルと座椅子があり、もちろん3人分の食器と箸が並べられている。附和は部屋を見回す香月をよそにポケットをまさぐり、携帯の画面を光らせた。
「あ、着信入ってる。ちょっとすみません、電話してきます」
香月を一人残し、そのまま料理を2人分だけ運ばせる。そして3分だけ時間を置いて、
「あーすみません……」
部屋の中に入り、わざと障子をぴしゃりと閉めてから話しを始めた。
「今電話したんですけど、なんか急に高官との会食が入ったらしくて。今月選挙だからバタバタしてるのかもしれませんね」
「ああ……そうなんですか……」
一瞬その表情に曇りが出た。何の言葉に引っかかったのだろうと、もう一度セリフを頭に流す。
「でも、もう料理はできてるから、せっかくだから食事して帰りましょう」
「え……でも……」
少し、警戒し始めたかな。
「いいんですよ。僕一人で食べたって何も美味しくない」
附和はにこりと笑い、少し視線を落とす。香月はその表情にかわいそうだとでも感じたのだろう。なんとなく、笑った。
「じゃあ……お言葉に甘えて」
「はい、どうぞ」
附和は先に座椅子に腰かけ、香月にも対面席に座るよう促す。
「アルコールは何か飲まれますか?」
「いいえ……」
「じゃあ僕だけ。帰りはタクシーで送りますから」
「いえそんな……」
ビールは注文していたので、もうテーブルに並べられている。附和は一人栓を開け、傾けることにした。
その後は食事をしながら昔、巽がプールで溺れた話しや、学校で先生に叱られた話しを面白おかしく提供してやる。
「今の彼から考えるとそんな一面、全然想像できませんよね」
「ええそうです。ほんとにいつからあんな大人になったんだか(笑)。昔を知ってる僕からすれば、ほんと成長したと思いますよ、彼は」
38階の一番奥。予約しているのは、和食レストランのビップ席だ。
もちろんそこに、巽は来ない。
「あれ、先に来てると思ったんだけどな……」
障子の奥にある8畳ほどの個室には真ん中にテーブルと座椅子があり、もちろん3人分の食器と箸が並べられている。附和は部屋を見回す香月をよそにポケットをまさぐり、携帯の画面を光らせた。
「あ、着信入ってる。ちょっとすみません、電話してきます」
香月を一人残し、そのまま料理を2人分だけ運ばせる。そして3分だけ時間を置いて、
「あーすみません……」
部屋の中に入り、わざと障子をぴしゃりと閉めてから話しを始めた。
「今電話したんですけど、なんか急に高官との会食が入ったらしくて。今月選挙だからバタバタしてるのかもしれませんね」
「ああ……そうなんですか……」
一瞬その表情に曇りが出た。何の言葉に引っかかったのだろうと、もう一度セリフを頭に流す。
「でも、もう料理はできてるから、せっかくだから食事して帰りましょう」
「え……でも……」
少し、警戒し始めたかな。
「いいんですよ。僕一人で食べたって何も美味しくない」
附和はにこりと笑い、少し視線を落とす。香月はその表情にかわいそうだとでも感じたのだろう。なんとなく、笑った。
「じゃあ……お言葉に甘えて」
「はい、どうぞ」
附和は先に座椅子に腰かけ、香月にも対面席に座るよう促す。
「アルコールは何か飲まれますか?」
「いいえ……」
「じゃあ僕だけ。帰りはタクシーで送りますから」
「いえそんな……」
ビールは注文していたので、もうテーブルに並べられている。附和は一人栓を開け、傾けることにした。
その後は食事をしながら昔、巽がプールで溺れた話しや、学校で先生に叱られた話しを面白おかしく提供してやる。
「今の彼から考えるとそんな一面、全然想像できませんよね」
「ええそうです。ほんとにいつからあんな大人になったんだか(笑)。昔を知ってる僕からすれば、ほんと成長したと思いますよ、彼は」