絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「そうですよね」
 香月は料理の感想を簡単に述べながらも、次々箸をつけている。こういう食欲のある女と気持ちよく食事をするのは久しぶりだなと、附和は素直に感じた。
「ああ……いい気分だな。酔いが回ってきたみたい」
 ビール、たったコップ2杯で酔うはずもない。
「大丈夫ですか?」
 香月は真剣な表情をして、顔を覗き込むように、箸を止めた。
「それにしても……あなたが巽の恋人じゃなくて良かった……いやね、僕。この前……先週の土曜日だったかな、日曜だったか忘れたけど、そこで巽が女の人とマンションに入っていくのを見ましてね、あいつ、ねーちゃんなんていないしなあと思ってよくよく考えてたんですよ。で、そえいえば、恋人の噂聞いてたなあって」
「……」
 予想通り香月は何も言わない。
「それが、結構年いった人でね。けど、僕的には安心しましたよ。香月さん、みたいな若くて綺麗な女の子が巽の彼女なんて、勿体なさすぎるから。
巽とは恋人の話とか、します?」
「え? え、……いえ……」
「あいつ年上好きなのかな……僕らよりもちょっと年上っぽかったんですよね……って言っておいて、年下だったら、えらい目に合うな(笑)」
「……」
 香月は、かろうじて笑う。
「いやなんかね……こう、セクシーな格好してたんですけど、それが僕にはちょっと年いってるように見えたんですよね。
 あいついつもなんですよ、恋人がいるとか言わないからわかんないの。
 で、内内で噂になって、実はそうだってね。まあ過去はいつもそんな感じでしたよ。でもそういや、いつものタイプに似てたかなあ……。香月さん、昔の彼女の写真とか見たことある?」
 自分で手酌をし、足を崩しながら、ビールを更に飲む。
「え……いえ……」
「今度見せてもらうといい、モデルみたいなのばっかりだよ。ほんとどこから集めてくるんだろうって不思議。外見重視なのか。それでもって、とっかえひっかえ。モテる男は違うんだろうね」
「……あぁ……」
 泣くのを堪えているのか、もう笑顔は見えない。
「いいなあ、俺も香月さんみたいな若い遊び友達がいたらなあ。ディズニーランドでも連れて行くのに」
「……そう……ですか……」
 返事をするのが精いっぱいのようだ。
「うんそう。けどね、もう俺の周りにいる女の人って30過ぎの人ばっかりだからさ。まあ、俺がもう36だから年相応といえばそうなんだけど、今更ディズニーランドなんか行ってはしゃいだって仕方ない年ってこういうことだよね」
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