絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 そのまま2人は園を出て、すんなりと朝車を停めた駐車場のホテルへ入る。ホテルの最上階まで風間は香月を案内すると、奥の部屋でインターフォンを鳴らした。
「ありがとうございました。お土産は頂きます」
「あ、はい……」
 中からドアが開くまでの数秒で、風間の最後の挨拶は完了した。
 すぐに中からドアが開き、しかし、この人の手が空いていたとしても、本当に一緒にディズニーランドに行けただろうか? と一瞬考えこんでしまうほど、巽は、2人からずいぶん離れた完全なスーツ姿で出て来た。
「……随分土産を買いこんだな」
 香月の手に持っている家族用のアップルパイの箱が大きなせいで、ビニール袋がかなり膨れていた。
「あっ、これは……」
「香月さんに、お土産まで買って頂きました」
 既に後ろに一歩下がっていた風間が自分の手持ちのビニールを報告する。
「あの、そう、風間さんのお金なんだけど……」
 というか、巽へのお土産買い忘れたー!!
 ああ……しまった。仕方ない。自宅用のチーズケーキを巽にあげよう……。
「食事に行くか? それとも、シャワーを浴びるか?」
 その、巽が提案する選択肢の意味が分からなくて、返事をしそびれてしまう。 その間に風間は、タイミングよく、「では失礼します」の一言で完全に消え、ドアはパタリと閉じられた。
 密室に、2人だけになる。
「し、し、……シャワーって……」
「汗をかいているだろう? レストランは予約をしてあるが、まだ少し時間がある」
「……ま、あ、まあ……」
 自分でも、何の返事なのか不明。
「あ、でも私、そんなお金、ないことはないけど……」
 そう、食事ったって、奢ってくれるとは限らない。こんな高級ホテルのレストランなんか、高いに決まっている。それなりにカードでも支払えるのだろうが、もし現金のみとなった場合、支払いが不可能になる。
「お前に金など期待してない」
 そう言われても仕方ないくらいの身分の差であることは、間違いない。
 なんたらかんたら下らないことを想像しているがまま、しばらくその場で立ち尽くしてしまう。
 巽はというと、どうしたいのか、室内を歩いたり、座ったりしていたが、ほどなくして、
「……レストランに行くぞ。そんな所で突っ立ってても仕方ないだろう」
 彼の後について、廊下を歩き、エレベーターを、一階下がる。すれ違う人が、みんなセレブそうに見えるのはホテルのインテリアのせいだろうか。
 そして、本当に、どうしちゃったのか、というか、いつものことなのか。
「……すごく高そうなんですけど……」
 って案内されたのが、園内のパレードがそのまま見下ろせる一等席、しかも高級そうなディナーコースに、全く値段の検討もつかない。しかもウェイターにワインも注文してるし……。
「好きな物だけ食べればいい」
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