絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「働けるうちは、働け」
 なんでそういう答えになるのかなあ……。
「えー……じゃあ、一緒にいれる時間もっと作ってよ……。私は作るつもりだよ。これから毎日、仕事から帰ってきて、すぐ寝て、あなたが帰ってきたら、起きて、一緒にお風呂に入る」
「またここで暮らすつもりか?」
「え、駄目なの?」
 しばし目が合う。
「いや……」
「時間はね、ないっていったらないままだから、努力して作るんだよ」
 香月は大きく胸を張って言ったが、巽はふんと笑う。
「……」
「酷い、なんか言ってよねー」
この夢のような提案の生活がこんなにもスムーズに進むとは、香月は全く思っていなかった。
巽は本当に時々時間を作ってくれるし、こちらもちゃんと努力して毎日深夜に一緒に風呂に入っているし。
今、自分達は自分達の歴史の中で、一番輝いているときだと思った。
香月はそう確信して、少し恐ろしくなってきていた。こんな時期ほど長くは続かない。いつだってそうなのだ。
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