絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「……」
「え、つまり私のどこが好きかって言ったら、外見?」
「……」
 巽はずっと前を見つめて、こちらを見てはいない。
「ねー、聞いてるのー? なんで黙るのよお……。なんか納得いかないなあ」
 というわけで、結局巽が何の反応もしなかったので、新聞も読まなくていいものだと解釈し、まあ、インターネットのニュース欄を見るくらいでとどめているのである。
 さて、本日は金曜日。何故このような明日休みでもない平日に突然お泊りかって、それは完全な巽の都合である。多分、日本で予定していた会食がなくなったとかそんなとこだろう。
午後10時の東京マンションにBMは乗りつける。エントランスに停車している車は一台もなく、非常に静かであった。
「待ってて、すぐだから」
 ほんの、5分のこと。着替えをとってくるだけ。2人はそう思って、思い思い、視線を交えた。

 東京マンション707号室の玄関に入ると、珍しく真藤がソファでくつろいでいた。
「あ、おかえりなさい」
 膝にはパソコンを抱えているが、見ているのはテレビのバラエティ番組のようだ。
「珍しいですね。テレビなんて」
「そうですね……」
 真藤はこちらを見ずに、思いだしたように何か打ち込み始めた。
「いや、いい趣味だと思いますよ?」
 グルメバラエティは自分も好きなので、テレビ番組のセンスの評価をしたつもりだったが、相手に伝わっただろうかと一瞬考える。
 まあ、いいや、真籐さんだし。
 とりあえず、自室に入ろうとしたところで、コートのポケットの中の携帯が鳴った。
 ディスプレイを確認する。
『夕貴』
 珍しい名前だ。最後に連絡したのはいつで、どんな用事だったのか全く思い出せない。
「はい」
 とりあえず出た。
『もしもし、今どこ?』
「今? 家。今から出かけるけど」
『落ち着けよ。落ち着いて聞け』
「え、何?」
 動きが停止した。ただ事ではない。一瞬で予測する。
『阿佐子が死んだ。今朝死んだらしい。俺もさっき聞いて……』
 電話の声が遠くなる。
 膝が崩れた。
『おい? おい、大丈夫か!?』  
 夕貴の声が遠くでする。
「え、どうしたんですか!?」
 誰かに後ろから支えられる。ああ、誰がそこにいたっけ……。
『おい! 大丈夫か!?』
 真藤が耳に携帯を当ててくれたおかげで、声がクリアになる。
「う……ん……」
『今日お通夜で明日告別式だ。葬式は親族だけでするらしいから、明日告別式行こう』
< 155 / 318 >

この作品をシェア

pagetop