絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
『ああ、分かった』
 すぐに電話を切った。
 阿佐子は、結局、会えずにいた。思い出すときももちろんあったが、できるだけ顔をそむけてきた。その表現が一番正しい。
 榊からの連絡も何もなかったし、誰からも何も聞くこともなかった。
 そして、突然の死。
 死を予想してからだいぶ時間がたっていたため、まさかという気持ちがとても大きかった。まさか、阿佐子が死ぬなんて。
 あんなに死にそうだったのだから、その表現は実に間が抜けている。そう考えると、返すには返したが、阿佐子に何の措置もできなかった自分が信じられないと、今更後悔の念が募った。
リュウが好きだったのに、それが叶わなくて自殺した阿佐子のことを思うと、今、特別大好きな巽と電話していることすら、なんだか大きな罪を被ろうとしている。今さら、そんな気がして、ならなかった。
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