絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 なんかそれすごくかっこいいような、悪いようなセリフなんですけど。
「あの、今日は風間さんを誘って……あの、すみませんでした」
 一応、上司である巽に謝っておこう。
「まあ、風間くらいでちょうどよかったんじゃないか」
 ってどーゆー意味!? 失礼すぎでしょ、それ!
「あ……まあ……」
 首を傾げられても仕方ないでしょ、その返答は。
「……風間さんって結婚されてるんですね。 あの、私、風間さんにお世話になって……食事代とか払ってもらったし、並んで買いに行ってもらったりしたお礼に、お土産を渡したんですけど。あの、奥さまとペアのキーホルダーにしたんですけどね」
「キーホルダー?」
 巽はこちらに驚いた顔を見せた。
 目の前では、ウェイターが静かに料理を並べている。
「え、まあ……。多分そんな年いってないだろうから、ペアのキーホルダーでも喜んでくれるかなと思って、奥さんが! でぇ……」
「33、くらいだったかな」
「奥さんの年ですか?」
「確か」
「風間さんって何歳なんですか? 私より一回り上とか言ってましたけど、35くらい?」
「いや、32だ」
「……」
 何故にサバを読む!! それか、私が若く見えるってことを遠まわしに言いたかったのかなあ……。
「……美味しそう……」
 丁寧に並べられた料理は、前菜であろうサラダだが、食材が何なのかもよく分からないくらいの彩で、それはもう自力で食べられるような物では到底なかった。
「ワインは?」
「えー……ってえ、車は? あ、今日はあそこに泊るんですか?」
「スイートが丁度とれたからな」
 部屋……スイート? スイートって一人用もあるんだっけ??
「スイートって……」
「明日、休みなんだろ?」
 巽は既にサラダを何口も食べている。
「え、何で知ってるんですか!?」
「自分で言った」
 え、そうだったかな……。
 もちろん彼は余裕でワインなんか飲んでるし。
「飲むか?」
「え、いや、今日はご飯を食べたいかな、あは」
< 16 / 318 >

この作品をシェア

pagetop