絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 パソコンで打たれた文字。よく見ると、紙はB5版の普通紙だ。
 まず、この、久しぶり。だが全く分からない。
 次に、この前……写真を見ても、日づけは入っていない。が、つい最近ということだろう。
 更に、君の彼……巽のこと……? となれば、巽が新しく手懐けた女がこのマンションにいるということになる。
 会ってみたら……? とは一体、何故そんな挑発的な態度をとっているのか。
 しばらく写真を見たまま考えた。
 本当に会いに行くか、それとも、まず巽に尋ねるべきか……。
 この話しが事実だとしたら、巽に尋ねても、多分きっと何も言わない。
 風間も同様だろう。
 そこで、写真をもう一度よくよく見直していてハッと気づく。
 この運転手! 以前巽の周辺で見たことがある!
 その瞬間心臓が大きく高鳴った。
 運転手が連れてきた女……。間違いない、巽の指示だ……。
 頭の中ではフルスピードで数々の計算がなされ、公式が出ては消え、消えては出て、たくさんの仮説と妄想が入り乱れて、突然苦しくなる。
 写真と手紙を持って自室に入るとすぐにパソコンを立ち上げた。
 検索するのは、サクラマンション。すぐに出てくる。外観も同じ。ここから、車で30分くらい。……巽の自宅からは一時間はかかる。それくらい離れていなければならない理由があったのかもしれない。
 香月はこのとき既に差出人のことは忘れ、決心していた。
 この女に、絶対に自分という存在をアピールしておかなければならない……と。
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