絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
確信と言える証拠は全くなかったが、目を見て言いきった。
「それは単なるお前の妄想だ」
「けどあの子はあなたのことを好きだと思う」
 だって、あなただって、人質だった私にあんなに優しくして……結局セックスしたじゃない。
 巽は既に話しを聞くつもりがないのか、こちらを見ずに、ただ溜息をつくと、一度部屋から出た。だがすぐ出て来るとキッチンに入り、グラスとアルコールを手にもう一度リビングに戻ってくる。
「……何か言ってよ」
「何を言ったって信じないだろう? 今のお前は」
 香月より離れたソファに腰かけ、グラスにただアルコールだけを注ぐ。時々氷を入れていた気がするが、今日はそういえばボトルが違うせいかもしれない。
結局自分は、巽の酒の好みすら知らない。
「そのうち分かる。あの女があそこからいなくなれば、お前も安心するだろう」
 そのうち住む場所を変えてやるつもり……いや、それとも、取引のネタの方を信じる?
「どこから宛か知らないが、信用する相手を間違っていると思うがな」
 巽はこちらをじっと見つめた。
「じゃあ何でこれが私に届いたの? けど誰か、私にこの……その、ことを教えたかったんじゃないの?」
「俺には分からんが、お前が気にすることじゃない」
 さらっと言われて、なかったことにしたいのかと、腹が立つ。
「気にするよ!」
 悪いのは巽。
「気にするに決まってるじゃん……」
 信じろって言われたって。
「そんな、なかったことに、みたいに言われたって……」
 信じる材料、与えてくれてないから仕方ないじゃん。
「誰もそんなことは言ってない。写真が本物だということは分かっただろうが、手紙はいたずらだ。現に、お前の知人のように書かれているが、心当たりはないんだろ?」
「ないけど。あなたの知り合いじゃないの?」
「心当たりはないな」
 しっかり目を見て話しているのに、それが、騙されている気がしてならない。
「少し頭を冷やせ。お前にそんな手紙を出したところで、得をする奴はいない」
「いるんじゃないの?」
 睨みつけようと思ってやめた。自分が今想像していることが、現実だとしたら。現実だと信じるとしたら……。
 その迷いの間に巽は、こちらへ近づき、ぐいと背中に腕をまわして、ソファになだれ込ませた。素早いその動作に、抵抗する暇はない。
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