絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「分からない奴だな。相手の思うがままだぞ?」
 やっぱりそうだ、そうに決まっている。
 巽には他に本命がいて、その人からのいたずらなんだ。
 巽もそれを承知なんだ。
 確信と同時に、涙が溢れる。
「いつもそうやって騙してばっかりで…………」
「誰がいつ騙した?」
 言いながら、ズボンの中に手を入れて来る。
「ちょっ、嫌!!」
 腕をつかんだが、それは非力でしかなく、巽の手が、思いのままに動き回る。
「嫌! 嫌!!」
 大きく体を捩じり、なんとか逃れようとするが、許してはくれない。
「嫌だ! いつもセックスばっかり!」
 不意に巽の力が緩んだ。
「いつも嫌だった。どこへも連れてってくれない。休みがないなんて、嘘に決まってる。私は、いつも、ただ一緒にご飯が食べたくて、普通に、テレビ見たりしたいのに……好きなら、電話くらいしたいに決まってるのに、電話もしちゃダメ、メールもしない、会ったらセックスするだけ。……」
「そんな」
「それでも、私が好きならそれでいいと思ってるけど! あなたが……セックスしたいと思ってるなら……思ってくれてるなら、それでいいと思ってるけど……」
 泣かないように、必死で宙を見つめて言いたいことを言えるだけ吐いた。ああ、こんなに溜まっていたんだと、自分でも信じられないくらい、すっきりする。
巽はいうと、表情は特に変えはしなかったが、ただ、少なくとも、両手が香月の体からゆっくりと離れた。
「言いたいことは、それだけか?」
「……他にもあった気がしたけど、忘れた」
 ああ、どうして言ったんだろう。それで、別れると言われたら、どうすればいいんだろう。
 目を伏せた途端、涙は流れていく。涙を見せるつもりはなかったんだと、弁解するつもりで、顔を伏せた。目の前のソファの皮が、涙を弾く。
「私が好きならそれでいいと思ってる」
 それだけは事実だ。間違いないのだと、自分に確認する。
「誰がお前みたいなガキに、わざわざ体目当てで都合をつけたりするか」
 溜息をつきながら、それでも巽がこちらを見つめているのは分かった。
「だって、だって……」
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