絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
本気で抵抗した。
 つもりだった、ということは絶対にない。
 嫌だと何度も言った。
 そんな気分にはなれない、いや、そんな愛のない体で触れないでほしい、と。
 その想いは、巽にとってはどうでもいいことだったのか、簡単にへし曲げられた。途中、泣いたのもかかわらず、気がつかなかったのか、やはり、どうでもよかったのか。
 心中を告げても、変わらないことは分かっていた。
 いや……、言えば変わるかもしれないと思ったから言ったのだ。
 巽は果てるとすぐに身体を離し、
「お前は一体俺の何を見ている」
 そう聞いた。
 だけど聞かれたって、あなたが見せてくれているものしか、見えていない。
「……」
 そう思ったので、黙っていた。
 散らかった服を着て、パックを握る。涙は頬をつたい、何度もソファや床に落ちたが、巽は少し離れてソファに座り、香月がリビングから出るまで、黙ってそれらを見ていたにすぎなかった。
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