絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 ポン。
 すぐにエレベーターは到着し、開く。中にはセレブそうなおじさんとおばさんの2人。
 巽は先頭に乗り込み、中からボタンを押して待ち始めた。
「早く乗れ」とは言わず、顎で中へ入るよう指示する。
 他の客の目が気になり、香月はドロンポーズも忘れて、慌てて中へ飛び乗った。
 先に乗っていた客が押していたボタンは最上階、47階であった。
 全員無言のまま上がる。おじさんが香月の軽装をジロジロ見ているのが気になったが、おばさんのドレスに対して、香月の服装がかなり浮き立っていたことが要因だろうと小さく溜息をつき、下を向いていた。
 そうだ、もしかしたら、2部屋用意しているのかもしれない!
 突然思いつき、深呼吸して、エレベーターを降りる。もちろん彼の後に続いた。
 そして長い廊下の果て。さっきと同じ場所。
 彼はポケットから一枚のカードを取り出すとそこに差し込んだ。
「……」
 先に入るよう、ドアを開けて待っていてくれる。
「……」
 とりあえず中へ入ったものの、あの、ここが私の部屋ってことでしょうか?
「えっと、あの……」
 彼は先に靴を脱ぎ、上着も脱いでハンガーにかけた。
「あのー!」
 まだ靴も脱いでいない香月は、居場所に困り果てる。
「あ、あの……」
「先にシャワーを浴びてくる」
「えっ……」
 さ、先ってことは、私が後!?
 どうしよう……、すぐに彼は奥に入り、見えなくなる。
 今帰ろうと思えば帰れる。
 だけど今帰っても、後でごめんねとか、用ができてとかいう言い訳をしないといけない。 
 そう、せめて今日のお礼とか言って帰らないと……。
 どうしよう……どうしよう……どうしよー!!
 バックを握りしめて、一体どれくらい時間が経過したのだろう。
 ガタガタという音が聞こえたと思うと、奥から巽が裸にバスタオルを腰に巻いただけの格好で出て来た!
 ひ、ひぃぃぃ!!
 その硬直の仕方といったらなかったと思う。汗でバックを握る手が滑るほどだった。
「……いつまでそんなところで突っ立っている……」
「えっ!? いやっ、あのっ」
 彼は言いながらどんどん近づいてくる。よく見ると髪がまだ濡れていて、滴がぽとぽとと垂れている。
「えっと、その……」
 ギリギリまで寄ると、ポンと、肩に手を置いてきた。
「えっ? うわっ!」
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