絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 香月はころころ笑って先へ進む。
「日本人の味覚って繊細なんだね、多分」
「そうだな」
 実際そう思ったので同意するが、香月は
「えー、どうしたの? 珍しい……私の意見に同意するなんて、出会ってから2回目くらいだよ」
「……お前が普段同意できんようなことばかり言うからだろ」
「そんなことないよ! 個人の意見です」
 一緒にいるほどに思う。香月は若くて、美しい。さっきからも、ただそのホテルの廊下を歩いているだけなのに、すれ違った人が振り返る。違う国へ逃れてきたって、同じことなのだと思い知らされる。誰も彼女を放っておきはしない。
 そんな彼女が自分だけに、特別な好意を寄せてくれている。それに、答えようとする自分がいる。
 年をとった証なのか、それとも、運命の人物として出会ったのか……。
 香月は長い髪の毛を揺らして、先へ進む。
 切ってしまうのが惜しい髪の毛。今、それに触れていいのは、自分だけだ。
 部屋に着くなり、香月はベッドの上に倒れこむ。日は昇りはじめ、時計は朝食にもってこいの時間になっている。
「今からどうする?」
「食事にするか?」
「うーん……ねえねえ、ここ座って?」
 香月の誘いにそのまま乗って、ベッドサイドに腰を下ろす。
「キスして」
 目を閉じ、信じ切って、てキスを待つ。香月にはこちらしか見えていない。
「……」
 ゆっくり顔の輪郭を確かめるように撫でて、唇に指を這わす。
 そっと彼女は目を開いた。
「……待ちぼうけじゃん」
「せっかちだな」
 巽は笑いながらその唇を、静かに、柔らかな頬へと近づけた。

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