絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ

それなら式を忘れた方がいい

 人の子の成長は早い。と聞いたことがあるが、実際自分の子がいないので比べる対象がないのでよくは知らない。
 だが、今日西野親子と最上親子を目の前にして、単純に人の子の成長は早いと思わずにはいられなかった。
 幾度目かの西野邸は相変わらず若い雰囲気が漂っており、リビングからキッチンにかけてのピンクの派手なのれんをはじめ、テレビの端に施されたデコレーション、カーテンのタッセル。どれもキラキラした安物の雑貨であり、まだ十代の学生らしさを充分に感じさせた。
 そこに、座り込んで熱心にミニカーを走らせる西野の息子とまだ寝たままの最上の娘が、ほのぼのと団欒しているのだった。
 突然、孤独を感じたがそれも仕方ない。
 2人はこちらを気遣って会社の話や世間話をしようとしてくれるが、どういうわけか、結局は子育ての話になり、西野の幾分先輩風のアドバイスを最上が子供を見つめながら聞くという流れの繰り返しだった。
「香月は結婚しないの?」 
 女である最上なら多分聞かない。西野はこちらを見ずに、遊んでいる子供の口元にストローでお茶を与えながら片手間で聞いた。
「したいって言ったけど断られたの」
 できるだけ軽く言ったが、目の前の2人は目を大きく開いて、「えー!?」と声を上げた。
「誰誰誰!?」
 最上は半分笑っている。
「会社の奴? 待て。もしかして、……宮下店長じゃないよなあ……」
 西野は慎重に掘り下げようとしている。
 香月は西野の真剣さを裏切るように、「皆が知らない人だよ」とさらっと言ってのけた。
「え、どんな人なんですか!?」
 子供が寝返りをうち、座布団からズレたが、そんなことに無関心な様子の最上は真剣に聞いてくる。
「どんな……兄がね、経営者なんだけど、そういう感じかなあ、仕事柄少し似てるのかもしれない」
「へー、兄さん経営者なんだー。何の経営してんの?」
 どうでもよさそうに聞いてくる西野に、一番簡単に応える。
「駅前のショッピングモールだよ。あそこ」
「ゲ、でかい!! すげーな!!」
「えー、香月先輩、なんでそんないい人私に紹介してくれなかったんですか!?」
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