絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 いっそ飲んでいた方が良かったのか、それとも飲まなくして少しでも正解の道に近づいているのか……。
 香月愛は、午前10時の明るいスィートルームの室内で、ベッドの上で体を起こしながら思いを巡らせていた。
 正真正銘、これが世に言う浮気である。
 隣の男がすやすやと眠りについているのがうらやましくも憎らしいくらいに。
 ……とりあえず、シャワーを浴びよう……。
 携帯電話を見るのが辛かった。
 ここへ来ることは宮下には一言も言っていない。
 既に、宮下との関係は降下していることは間違いないが、それが、このような形で決定的なものに変わるとは、本当に予想もしていなかったことで……。
 悪いのは誰でもない、自分だ。
 巽の、「俺の物になれ」という言葉にどれだけ意味が込められているのか分からないが、考えるだけ無駄だろう。
 多分きっと、巽の中でこれはいつものことで、相手が少し違うだけのことで……、久しぶりにリゾート地のホテルなんかに来たせいで気分が盛り上がってしまったのだろう……。
 断りきれなかったのは自分……。
 いや、巽の決定的なセリフに、心動かされた?
 好き……?
 いや、そんなはずがない。
 頭の中ではシャワーを浴び、服に着替えなければという行動の全てがぐるぐる回ったが、当の体は昨夜の疲労で全く動かない。特に、足がだるくて、トイレに行くのもおっくうだった。
「ねえ」
 とりあえず、この男を起こそう。
 どんな無表情を見せるのだろう。
「ねえ、ねえ!!」
 強引に、肩を揺らす。動いているのは彼の体なのに、目から溢れた涙が揺れたのは、香月の方であった。
「…………なんだ?」
「……なんだって……」
 なんだってことないでしょ……。
 香月は、流れる涙を拭こうともせず、じっと巽を見つめた。
「どうした?」
 目をうっすら開け、親指で優しく拭ってくれる。
「中が痛いか?」
「えっ? 中って?」
「子宮」
「痛くない!」
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