絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「うんまあ……」
 間髪入れない女の会話にようやく隙間ができ、西野はいつぶりかに口を開いた。
「その人、一生遊んで暮らす気なわけ?」
「……というより、今は仕事がうまくいってるから……って感じかな。もうちょっと待とうかなってとこ」
 20年待つなんて、とても一般常識のレベルではない。皆に心配されることを恐れた香月は、本当のことは、言い出せなかった。
「いつまで待つんですか? 30過ぎても?」
 最上の余裕に、さすがに少し腹が立つ。
「……けど待ちすぎたら、子供産めなくなるしね」
 まるでそう言ってほしそうだったので、仕方なく自虐してやった。
「まあ、40くらいまでは産めますけど……」
 それくらいの知識、独身の私にでもあるよ。
「子供はいいぞ。大変だけどな」
 自分の子じゃないのに、西野は嬉しそうに笑う。
「……そだね……今日見て、いいなあって思ったよ」
 こんな、コロッケだのなんだの地べたに座って話す雰囲気がいいなあと思ったんじゃない。ただ……少しいいなと思ったことがあって。
「その人、イケメンなんですか?」
 少しズレた話題にホッとした。
「うん」
 即答してやる。
「え、香月先輩がイケメンって言ってるの、初めて聞いた……。写メとかないんですか!?!?」
「えー、ないよ(笑)」
「どんな感じですか!?」
「大人だよ。一回り違うし。いつもスーツ」
「やっぱ高級車? ベンツ?」
「BM」
「いいなあ……。私も軽から卒業したい……。車も欲しいし、旅行も行きたいしぃ……」
「独身見てると、ほんと羨ましくなるよなあ」
 どういう意味があるのか、西野は子供の背中に手を入れると、少しさすり、すぐに手を抜いた。
「ほんと、ほんと!」
「自由だったあの頃が懐かしい!」
< 210 / 318 >

この作品をシェア

pagetop