絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
西野邸から新東京マンションに直行し、日付が変わったその金曜。ソファで眠り、ただ巽の帰りを待つだけに過ぎなかった香月は、昼間の最上と西野の姿が一向に頭から消えずに目を閉じることもできなかった。
スーツを装備のように纏った全く生活感のない巽は、「結婚」や「子供」という言葉をいとも簡単に振り払い、まるで寄せ付けようとはしない。
その、言葉を出すことすら、既に拒まれている気がする。
「……いたのか……」
深夜2時。玄関で靴を見て、予想はしていただろうが、帰宅した暗がりの中、ソファを見て巽は一言漏らした。
何も連絡せずに、マンションで待つことはほとんどない。たいていは、出ないと分かりつつ着信を残しているのだが、今日に限っては、もし帰って来なくても、ここに居たいという気持ちで足を運んでいた。
だから、今巽が帰宅し、上着を脱いでいる間、喋ることが何も思い浮かばないから、黙っている。
いつもなら、今日見たテレビがどうだったか、それについての自分の意見だとか、下らないことが次々に思い浮かぶのに。今は、西野と最上のあの、慎ましく、質素な子育てぶりしか頭に浮かばない。
高級外車に乗り、高級マンションの中に入って、まるでモデルルームのようなその部屋で寛いでいても、今日ばかりは気分が乗らない。
こちらの反応を気にしてか、巽が先に唇をつけてくる。
唇を交わし、首筋を撫でられ、反応しようとしても、気分が乗らない。
今はそんな気分ではない。
「……どうした?」
既にワイシャツをはだけようとている巽が、ようやく口を聞いた。
「……どうもしない……お風呂、一緒に入ろうか」
何か他のことをすれば、もう少し気分が違うはず。
「……ああ……」
巽も何かを感じ取ったのだろう。素直に従ってくれる。
自分でも不気味なくらい、無言でいるのが分かる。どう考えたって不自然だし、不機嫌だ。
仕方のないように、2人は、50分かけてお湯を溜めた広い湯船にゆっくりと浸かる。広い湯船なので、2人の体は少しだけ触れ合っているが、香月が体育すわりをして更に縮こまれば、それを避けることもできた。
「……何があった?」
濡れた髪をかきあげながら尋ねてくる。
「……ううん……何もない。ごめん、今日多分不機嫌なの」
スーツを装備のように纏った全く生活感のない巽は、「結婚」や「子供」という言葉をいとも簡単に振り払い、まるで寄せ付けようとはしない。
その、言葉を出すことすら、既に拒まれている気がする。
「……いたのか……」
深夜2時。玄関で靴を見て、予想はしていただろうが、帰宅した暗がりの中、ソファを見て巽は一言漏らした。
何も連絡せずに、マンションで待つことはほとんどない。たいていは、出ないと分かりつつ着信を残しているのだが、今日に限っては、もし帰って来なくても、ここに居たいという気持ちで足を運んでいた。
だから、今巽が帰宅し、上着を脱いでいる間、喋ることが何も思い浮かばないから、黙っている。
いつもなら、今日見たテレビがどうだったか、それについての自分の意見だとか、下らないことが次々に思い浮かぶのに。今は、西野と最上のあの、慎ましく、質素な子育てぶりしか頭に浮かばない。
高級外車に乗り、高級マンションの中に入って、まるでモデルルームのようなその部屋で寛いでいても、今日ばかりは気分が乗らない。
こちらの反応を気にしてか、巽が先に唇をつけてくる。
唇を交わし、首筋を撫でられ、反応しようとしても、気分が乗らない。
今はそんな気分ではない。
「……どうした?」
既にワイシャツをはだけようとている巽が、ようやく口を聞いた。
「……どうもしない……お風呂、一緒に入ろうか」
何か他のことをすれば、もう少し気分が違うはず。
「……ああ……」
巽も何かを感じ取ったのだろう。素直に従ってくれる。
自分でも不気味なくらい、無言でいるのが分かる。どう考えたって不自然だし、不機嫌だ。
仕方のないように、2人は、50分かけてお湯を溜めた広い湯船にゆっくりと浸かる。広い湯船なので、2人の体は少しだけ触れ合っているが、香月が体育すわりをして更に縮こまれば、それを避けることもできた。
「……何があった?」
濡れた髪をかきあげながら尋ねてくる。
「……ううん……何もない。ごめん、今日多分不機嫌なの」