絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「そこそこ。じゃあ俺もパスタにしようかな。何食べようか悩んでたとこ」
 西野はただの思いつきで言う。
「陽太君パスタ好きなの?」
「うん、ミートソースなら食える」
「あ、じゃあ一緒に行く?」
 と俺に向けられた提案のはずなのに、彼女は後ろの彼氏を見た。
 彼氏は低い声で「構わないが」と承諾する。その冷静沈着な表情からは、内心が全く読み取れはないが、恰好良いとしか思えななかった。
「え、あー、いいけど。陽太が(笑)。おとなしくしてないかも」
「いいよ、知ってる(笑)。いいね、たまにはこういうのも。私兄弟いるけど誰も結婚してなくてさ、ほんと周りに子供いないのよねー」
 若干無理矢理息子を抱えた西野が先頭に立ち、香月達はその後に続く。
「たまに子供見ると新鮮だろー、けど毎日だったら飽きてくるぜ(笑)」
 路地裏のパッソクラブは場所の割りに人気なのか、空席がほとんどなく、時間の関係もあって人で賑わっていた。
 4人はなんとか落ち着いて、席へと着く。
「陽太君、おとなしいじゃん」
「あー、知らない人がいるから大人しいのかも。さーて、何食べようかな」
 それぞれはパスタを3人前注文すると、なんとなく談笑し、こちらを伺ってほとんど食事をとろうとしない子供の話題を中心におきながら、穏やかな午後のひと時を過ごした。
 香月の彼氏、巽は全くの無口でこちらが話題を投げかけるまで口を開こうとはしなかったが、その身振りや態度がとても一般人ではなく、やはり大物であると感じさせられた。
 香月につりあう男なら、このくらいじゃないとダメなのか……。
「そういやこの前、さえ……、最上のな(笑)子が風邪だったんだって。香月はうつってない? 俺んちうつったんだよねー」
「え、西野さんが?」
「いや、陽太の方だけど」
「私は大丈夫だよ。けど最上もさ、なんか大人になってたよね。子供抱いてると、全然違う」
 香月の表情は少し、落ち込んでいるように見えた。そこでふと思い出す。
 結婚してくれない彼氏を隣に、子供の話をするのが辛いのか……。
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