絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 香月は即答する。
「……じゃあ何だ?」
 巽はようやく起き上がり、視線を同じにしてくれるが。
「…………」
 巽には分かるはずがない。
 あんなに強引にしておいて、そんな呑気に朝を迎えられたって、こちらには、それを謝らなければいけない人がいることを。
「合意はしていなかった、と言いたげだな」
 香月は顔を上げた。
「とっ、私、嫌だって言った!」
「俺の物になることを了承したつもりで、抵抗をやめたんだと思ったが?」
「そっ、そんなこと一言も言ってないし!」
 俺の物になるって一体……!?
「あなたは……いつもそんな風かもしれないけど。私はちゃんと付き合ってる人がいて!……あんまりうまくはいってないけど、それでも裏切りたくはなかったから……」
「裏切るか裏切らないかはお前次第だろ? それで別れを決意しているのなら、いいきっかけになっただろう」
「……いいきっかけって……」
 いいきっかけって……。
 混乱が、確信へと変わろうとしている?
「わっ!」
 巽は突然香月をベッドに押し倒すと、はっきりとした口調で言った。
「苦労はさせんぞ? エレクトロニクスも辞めて、マンションに住まわせてやる。車はBMには飽きただろ? 今度はベンツか……?」
 口元は笑っているが、目が真っ直ぐこちらを見ているのが分かる。
「…………い、言ってる意味が……」
「分からんか?
 お前が俺の物になるというのなら、面倒をみてやる」
「……愛人になれってこと?」
 香月は眉間に皺を寄せた。
「そういうことだ」
 巽は自信たっぷりで答えたが、香月はそれに反し、
「なんで愛人なんかに……」
 顔を逸らした。
「私はお金に困ってません!」
「そうか? ここから家まで帰るのも大変だろう?」
「…………」
 巽に見下ろされ、いや、見下されながらも、返す言葉は思いつかない。
「心配するな。お前がその気になるまで、待っていてやる」
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