絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 と、香月は立ち上がり、2人はオーダー表を取ろうとすると既に彼氏が手に持っていた。
「いや、自分の分は払います!」
 陽太を抱えたまま財布を出そうと慌てて言う。
「え、あ、いいよいいよ、払ってくれるって言ってるんだし」
 香月は彼氏を確認するなり笑う。
「いやでも……」
「構いませんよ」
 巽と名乗る男は意外にも爽やかな笑顔で、さっそうと立ち上がりレジへと向かった。ただその向かう途中、若い女性達の視線を一斉に浴びていたことに、本人もおそらく気付いているに違いない。
「悪いな、香月」
 そんなつもりで誘ったのではないのにと思いながら、心底謝った。
「いいよいいよ。楽しかったし。良かったよ、一緒に食事できて」
「そうか?」
 まあ、いつもよりは陽太が大人しかったので良かったことにしようか。
その後、もう一度巽と香月に礼を言い、4人は2組に分かれた。
 あんなに美しく、女神のように輝いている香月が初めて、彼氏と呼ぶ男を堂々と横に置き、自分がいかに落ち込んだかを知った。職も、金もある。男前のBMの彼氏。
 だが、溜息をつこうとして辞めた。
 陽太がこちらを見ている。
「帰ろうか……」
 問いかけたつもりだが、既に陽太はこちらを見ずに、我先へと走り出す。
「陽太! 待てって! 」

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