絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 先ほどの瞳とは別人のような、険しい目をこちらに向けてくる。
「……しばらく考えたんだが……」
 香月は視線の先を変えない。
「別れた方がいい」
「え?」
 香月は瞳を見開き、起き上がった。
「な……どうして?」
「子供が欲しいと思ってるだろ? 20年待つといったって、お前の内心は子供を産んで結婚したいと思ってるだろ」
「え、まあ……そうだけど。でも……」
「俺は、20年後に結婚はできても、子供を作ることはしない。それは相手がどうという問題じゃない。家庭というものそのものを作るつもりはないという意味だ」
「……分かってるよ?」
「……」
 そこで一旦ベッドサイドに置いているタバコに火をつける。煙のせいで胸の奥が息苦しい気がした。
「……いいよ、別に。子供作らなくても。一人で生んだってきっとあなたとはうまくいかない。なら、20年待った方がいい。だから、……別れた方がいいとは思わない」
 想像以上に、彼女は冷静に受け答えをした。
「……辛いだろ。ああやって、子供がいる家庭を見たら」
「………」
「代理出産という選択肢はない。だから、今しかできないことをした方がいい」
「だから私は……!! 私は子供が欲しいんじゃない。あなたと……あなたと一緒に生きていくための子供なら欲しいと思ってるだけで……だから……だから……」
「他の道もある」
「やめて……やめてよ……。聞きたくない」
 少なからず香考えていたのだろう。彼女はシーツに体をうずめると、背を向けて丸くなる。
「……寝るか?」
「寝る」
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